クソー!無視しやがって!
まぁ、分かってましたけど。どうせ、俺の誕生日なんか忘れていたんだろうが。
この夏、ついに70歳になってしまった。当たり前のことだが69から70になったところで、1日経っただけで、何が変わった訳ではない。まぁ、取り敢えずプロフィールだけは変えておこう。
当然の如く、我が妻も娘も俺の誕生日なんか覚えてはいない。当日は土曜日、娘は会社休み。だから娘はゆっくり朝寝坊で、妻も平日の朝の慌ただしさを忘れ、のんびりと朝食の用意。全く普段の土曜日の光景。娘が起きてきた時に、一応言うだけは言ってみた。
「あのさー、今日俺の誕生日なんだけど!70歳、古希!」と。
娘は無視。って言うか関係ない一言、「後でちょっと遊びに出掛けるから」。 はぁ、遊んでばっかり。会社でまともに仕事してんかい?真剣に彼氏見つけろ!
逆に妻は急に振り返って曰く、
「あなた、70になったの? あなた、今月医者無いわよね! そう! 今月は怪我しないで、風邪引かないで! 例え熱中症、コロナに罹っても医者はダメ!」 えーっ!
なんでも、70歳になると医療費が3割負担から2割負担に変わるそうで、それ自体は貧しい我が家にとって大変助かるんだけれど、それは70になった当月でなく翌月からなんだって。 はぁ~。風邪、怪我、気を付けねば~!
まぁ、こんなもんだよね、俺の誕生日の日の光景って。
その後も普段の土曜日と変わりなく過ぎていき、夕方の買い物にお付き合い。
いつものスーパーに入り生鮮食品売場で妻が止まり、こちらを見て一言。 「まぁ、しょうがないかー。」
と、刺身のパックを1つ手に取り買い物かごへ。 (うん?奥さんやーい!この刺身の数、家族で分けるとちょっと少なくないかい?)
家に戻り、妻は夕食の支度。フライパンから肉を焼く音が聞こえ、今晩のおかずが刺身に肉炒めと知る。
やがて、玄関のピンポーンが鳴って、娘のお帰り。玄関の鍵を開けてやると娘がさっと紙袋を差し出す。「えっ?」と驚く俺に「親父の飲んでいる焼酎よりは数倍高いから」と一言。
リビングに行って紙袋を開けると、中には4合瓶用の綺麗な堅紙の箱。もちろん中は日本酒。銘柄を確認、なんと『越乃寒梅』しかも【特撰】!思わず拍手!
夕食の用意が出来、席に付く。テーブルの上には、少しでも豪華に見えるよう盛り付けられた刺身と豚肉の炒め物。うん、一般庶民には刺身と肉があれば、それだけでご馳走!そこに美味い酒があれば言うことなし!サラダも大盛りであったけど。
ぐい飲みの代りにワイングラスを3つ。お酒をついで乾杯!
ちょっとだけ、いつもより豪華な夕食。 でも、俺にとっては本当に豪華なディナーでした。